はじめに
こんにちは。税理士の桜井晃規です。
物価の上昇や人手不足の影響を受け、スタッフの処遇改善が求められるなか、クリニックでも賃上げの動きが広がっています。
そうした状況で活用を検討したいのが、「賃上げ促進税制」です。
この制度は、前年度と比べて給与等の支給総額が一定割合以上増えていれば、法人税や所得税の一部を納税額から直接控除できるという仕組みです。
給与は当然ながら経費になりますが、さらに「税額控除」という形で税金そのものを減らせる点が大きな特徴です。
また、人員の増加や賞与の支給などによって給与総額が1.5%以上増加していれば、制度の対象になる可能性があります。
しかし、制度が複雑であることから「本当は使えたのに、顧問税理士が見逃していた」というケースも少なくありません。
本記事では、医療機関を支援する税理士の立場から、制度の概要と実務的な活用方法をわかりやすく解説します。
賃上げ促進税制とは?
この制度は、前年度と比較して従業員への給与等の支給総額が一定割合以上増加した場合に、法人税や所得税の一部を控除できる優遇措置です。
対象には、医療法人のほか、個人開業医も含まれます。
対象となる「中小企業者等」とは?
以下のいずれかに該当する事業者が対象です。
- 資本金1億円以下の法人(医療法人など)
- 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主(個人開業医など)※青色申告をしていることが前提です。
ほとんどのクリニックは、これらの条件を満たしています。
控除率と適用要件(令和6年度改正対応)
給与等支給総額の前年からの増加割合に応じて、以下の控除率が適用されます。
- 1.5%以上の増加:控除率15%
- 2.5%以上の増加:控除率30%
加えて、次の要件を満たすと控除率が上乗せされ、最大45%となります。
- 教育訓練費を前年比10%以上増加かつ当期給与の0.05%以上 → +10%
- 「くるみん」または「えるぼし(二段階目以上)」認定 → +5%
※控除できる金額の上限は、法人税または所得税額の20%までです。
税額控除のメリット
増加した給与は通常通り経費になりますが、さらにその一部が税額控除の対象となることで、実際の納税額を減らすことができます。
つまり、賃上げによる負担の一部を、税制でカバーできるのがこの制度のポイントです。
見逃しやすい「人員増による適用」
この制度の判定基準は「給与総額の増加」です。
そのため、個々の職員の昇給がなくても、以下のようなケースで適用されることがあります。
- 看護師や受付事務の新規採用
- パートから常勤への変更
- 代診医師の新規依頼
「昇給していないから関係ない」と考えず、給与総額の増加に注目することが大切です。
節税額のイメージ
【事例1】医療法人の場合
- 前期の給与総額:4,000万円
- 当期の給与総額:4,100万円(2.5%増)
- 増加額:100万円
- 控除率:30%
→ 税額控除額:30万円
※法人税額が150万円以上であれば全額控除可能
【事例2】個人開業医の場合
- 前年の給与総額:2,000万円
- 当年の給与総額:2,050万円(2.5%増)
- 増加額:50万円
- 控除率:30%
→ 税額控除額:15万円
※事業所得分の所得税額が75万円以上であれば全額控除可能
実務上は、数十万円から百万円程度の控除になるケースも多く見られます。
ベースアップ評価料との併用が可能
令和6年度の診療報酬改定で新設された「ベースアップ評価料」は、一定の賃上げを行った医療機関に診療報酬を加算する制度です。
この評価料により給与を増加させた場合でも、その増加分は賃上げ促進税制の対象に含めることができます。
- 診療報酬で財源を確保し
- 同じ賃上げで税額控除を受ける
という形で併用することで、費用面の負担を軽減することが可能です。
税額控除の繰越制度
税額控除の額がその年の納税額の20%を超える場合や、赤字で控除できない場合には、最大5年間繰り越して控除することができます。
この繰越制度は、令和6年度の税制改正で新たに導入されたもので、控除が無駄にならず、複数年で有効活用できる点がメリットです。
対象外となる給与に注意
以下のような給与は、控除の対象外となります。
- 医療法人の役員報酬
- 個人開業医の専従者給与(配偶者や親族など)
- その他、親族に対する給与
対象となるのは一般の従業員の給与のみですので、判定の際には注意が必要です。
まとめ
人件費の増加は、多くの医療機関にとって避けられない課題です。
そのなかで、賃上げ促進税制は「納税額そのものを減らす」という強力な支援策として活用が期待できます。
- 昇給・採用により給与総額が増加した
- ベースアップ評価料を算定している
というクリニックは、すでに要件を満たしている可能性があります。
まずは一度、制度の適用可否を確認し、見逃しのないよう整備していきましょう。
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